2020年8月
社會課題の解決に貢獻するグローバルなGood Companyへ

(中央)社外取締役 江川 雅子
ソロモン?ブラザーズ?インクニューヨーク本店、ハーバード?ビジネス?スクール日本リサーチ?センター長、國立大學法人東京大學理事などを経て、2020年より一橋大學大學院経営管理研究科特任教授(現職)。2015年6月より當社取締役に就任。
(左)社外取締役 遠藤 信博
日本電気株式會社で衛星通信システムの開発などに従事し、2003年にモバイルワイヤレス事業部長、代表取締役執行役員社長を経て、2019年より同社取締役會長(現職)。2019年6月より當社取締役に就任。
(右)社外監査役 和仁 亮裕
三井安田法 律事務所、外國法共同事業法律事務所リンクレーターズなどを経て、2014年よりモリソン?フォースター法律事務所(外國法共同事業モリソン?フォースター外國法事務弁護士事務所)(現職)。2014年6月より當社監査役に就任。
取締役會の実効性
実効性の更なる向上に向けてコミュニケーション機會の充実を
- Q取締役會の実効性についてどのように評価されていますか?
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- 江川
- 取締役會では毎回、自由闊達に議論が交わされており、密度の濃い充実した會議となっています。また、社外取締役だけでなく社外監査役の方々も積極的に発言されています。一つひとつの議案に関し、それぞれ立場や専門領域が異なるメンバーによって多様な観點から議論ができているのが非常に優れた點だと思います。
- 和仁
- 監査役に就任して今年で7年目になりますが、取締役會のメンバーは皆しっかりと自らの意見を主張される方ばかりなので、これまで議論が停滯して意見が出てこないといったことはなかったですね。それぞれが、取締役?監査役という役割を踏まえてコメントしておられます。また、議長も要所要所で適切に意見を整理し、議論を活性化させています。
- 江川
- それに加え、事務局が會議資料のまとめ方について工夫を凝らし、分かりやすい資料を提供してくださるので、重要な論點にフォーカスして議論を進められるのも良い點だと思います。また、M&Aなどの重要議案については、早期の段階から複數回の議論を重ねるようになっており、これも審議の実効性を高めていると思います。
- 遠藤
- 取締役會の実効性を擔保するには、まず適切な議案選定が重要になります。次に、適切なタイミングでそれらを討議することが必要です。更に、資料作成やブリーフィングといったPreparationも欠かせません。江川さんも指摘されたように、當社は、そのいずれの點においても大変充実していると感じています。
- 江川
- 報酬委員會では、年度の初めにグループCEOが年間の方針や目標などを詳しく説明し、そして年度が終わった時に、成果や活動內容をしっかりと総括します。経営者のこういった姿勢も當社グループのガバナンスの実効性に繋がっているのではないかと感じました。
- 和仁
- 本當にそう思いますよ。當社の取締役會のメンバーは、社內?社外、取締役?監査役の區別なく、會社に対するコミットメントが非常に強い。東京海上という同じ船に乗り、カルチャーを共有しながらも、かといって馴れ合うわけではなく、それぞれが我がこと感を持って、それぞれの役割をきちんと果たそうとしていると思います。
- Q更に実効性を高めていくための課題は何でしょうか?
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- 江川
- 取締役會において深く掘り下げた議論をしていくためには、會社の実態をしっかり理解することが大切です。私自身、社外取締役に就任して以來、営業會議に出席したり、インターナショナル?エグゼクティブ?コミッティに臨席し、各國のグループ會社トップと意見交換したりする機會を通じて、當社グループについて理解を深めることができました。今後もこうした機會を更に充実させていければと思います。
- 遠藤
- 當社の取締役會では「戦略論議」と稱して、グループの持続的な成長や中長期的な企業価値向上に向けた経営戦略についてディスカッションしています。例えば、2019年度は、「東京海上グループのCSR /サステナビリティへの取り組みとSDGs」や「海外子會社経営者との意見交換」、「東京海上グループのデジタル戦略」などについて議論をしましたが、テーマによっては、擔當の執行役員が議論に參加して、取り組みの內容を詳しく説明しています。この「戦略論議」は、私たちの理解を深める助けになっているわけですが、より現場に近い執行役員とのコミュニケーション機會をもっと増やすことも、私たちの事業理解を更に深めることに繋がると思います。
経営判斷の適切さ
組織?人材のダイバーシティを促進し、環境変化への対応力を強化
- Q事業環境変化を踏まえた當社グループの経営判斷をどのように評価していますか?
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- 遠藤
- グローバル保険グループとしてまず重要なのは、事業環境が目まぐるしく変化する中でも、リスク分散と成長機會獲得の両面から最適なポートフォリオを追求することです。この點において當社グループはとてもしっかりと取り組みを進められていて、大したものだなと感心しています。
- 江川
- 私は、投資銀行に在籍していた時代も含め、日本企業のM&Aを數多く見てきました。買収には各社共非常に熱心で一生懸命に取り組むのですが、日本の企業文化の影響もあるのか、売卻することには消極的であり、判斷が遅れてタイミングを逃してしまうケースも多數見られました。それに対して當社グループは、海外展開の先鋒となった再保険子會社の売卻や、エジプト生保タカフル子會社の株式一部売卻など、事業環境の変化や今後の成長戦略を踏まえた的確な判斷を下していると思います。
- 和仁
- 収益性の低い事業や成長性の乏しい領域については過去の経緯にとらわれず思い切って見直し、売卻もためらわない。それによって限られた資源を將來性の高い領域に投資していく──米國のPureグループの買収などがその好例だと思います。取締役會などでPureグループの事業の內容を詳しくご説明いただいて大変ユニークなビジネスモデルを持つ會社だと分かり、さすが目の付け所が違うと感心しました。
- 江川
- それからもうひとつ評価したいのは、リスクに対する向き合い方です。例えば、國內で新型コロナウイルスの感染が始まり、誰もがその対応で頭が一杯だった頃、當社では、もし、この感染癥と同時期に大規模地震が起こったら、あるいは風水害などが起こったらと、ダブル、トリプルの災害が発生した場合を考えた議論がすでに始まっていました。常に最悪の事態を想定して事前にいろいろな対策を講じているのが素晴らしいと思います。
- Q課題があればお聞かせください。
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- 江川
- 中期経営計畫の重點課題でもある「グループ一體経営」を一層強化していくためには、グループ各社から優秀な人材を積極的に抜擢し、組織の枠を超えてより重要なポジションで活躍できる環境を整えることが大切です。當社グループでは、M&Aでグループに加わった海外子會社の経営陣から、現在2名を當社の専務執行役員、1名を常務執行役員に登用しているのをはじめ、多くの外國人に責任あるポジションを提供しています。こうしたグローバルな人材の登用を今後も更に加速させていって欲しいと思います。
- 和仁
- 東京海上グループがグローバルなGoodCompanyをめざす以上、國外?國內を問わず人材の多様性、ダイバーシティ&インクルージョンは欠かせません。江川さんからご指摘があったように、海外子會社を含めたグループ人材を積極的に登用することは非常にうまくいっていると思います。
- 江川
- 日本の會社の場合、どうしても人材が均質化しやすい傾向がまだありますので、マネジメント層を含め多様な人材をもっと積極的に起用して能力を活かしていくことが重要だと思います。ひとつ例を挙げるとすれば、やはりデジタルの世界。當社グループでは、すでに専門性の高い外部人材の登用や社內人材の育成に関する取り組みを進めていますが、変化の激しい世界でデジタルトランスフォーメーション(DX)を更に加速させていくためには、テクノロジーに精通した人材を積極的に抜擢し、早い段階から將來のマネジメント候補として育てていくことが必要です。
- 遠藤
- 社內人材の育成の観點では、外部との接點を増やすことが有効です。デジタルの分野などは特にそうですが、もはや自社や自部門だけで解決できる課題はない、と言っても過言ではありません。東京海上グループの社員の皆さんには、私たち社外役員も含めて、積極的に外の知見を吸収していただきたいですね。
長期的な成長に向けて
將來の環境変化を見據え商品?會社のあり方を見つめ直す
- Q今後の長期的な成長に向けて、どのような戦略が求められるでしょうか?
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- 遠藤
- 世の中では最近、新型コロナウイルス感染癥の蔓延によって、Withコロナ、Afterコロナの世界がどうなるのか、盛んに議論されています。また、ウイルス感染癥だけでなく、地球環境問題や気候変動、人口動態といったマクロレベルの変化があります。更にデジタルテクノロジーなどの技術革新も社會を大きく変えていくはずです。當社グループの中長期の経営戦略を議論するためには、まず、これらによって今後、お客様や地域社會におけるリスクがどのように変わっていくかを考える必要があります。
- 江川
- ある領域ではリスクが減り、別の領域でリスクが高まる。全く新しいリスクが生まれてくる可能性もあります。例えば、運転支援?自動運転技術が進歩すれば交通事故のリスクは低減しますが、その一方でシステムへの依存度が高まれば高まるだけ、故障した場合の影響は大きくなりますし、ネットワークに繋がるシステムならサイバーセキュリティのリスクも高まります。
- 遠藤
- 私はこの自動運転やMaaS*1などに加え、これからの5年、10年でロボットが家庭に普及する時代が來ると考えています。すでにお掃除ロボットが普及していますが、その他の電気製品もネットワークに繋がり、AIで自動制御される製品も登場しています。今後、一家に一臺、一人に一臺ロボットがある暮らしが日常になったら、サイバーセキュリティが極めて大きなリスクになるのは間違いありません。
- 江川
- 當社グループでは、業界に先駆けて「サイバーリスク保険」を商品化していますが、この種のリスクは本當に日々刻々と変化しますから、技術や社會の動向に常に目を光らせて商品やサービスを改良し、新しい保険商品を開発していく必要があります。
- 遠藤
- 保険商品や保険會社に求められる機能や役割そのものも、これから大きく変化していくのではないでしょうか。例えば、醫療保険は、萬が一の病気や怪我を保障する保険商品ですが、できれば病気や怪我をしない方がお客様にとっても保険會社にとってもメリットが大きいはずです。そのため當社グループでは、萬が一の事態に備えるだけでなく、お客様の健康増進をサポートする機能を付加した醫療保険「あるく保険」を開発しました。同様に自動車保険でも、當社グループではドライブレコーダーを活用した事故防止支援サービスや安全運転診斷サービスなどを提供しています。これからは単に“リスクに備える”だけでなく、リスクサーベイやロスプリベンション*2など“リスクを低減する”機能を備えた保険が高く評価される時代になるかもしれませんね。
- 和仁
- 時には遠い將來の東京海上グループ像を考えることも重要だと思います。50年後、100年後に、私たちはどのような社會課題に直面するのか。その課題解決に貢獻するために保険會社として何ができるのか。あるいは保険會社という枠組みを超えた存在をめざすべきなのか。たとえはっきり結論が出なくてもいいんです。その議論をベースにして更に議論を重ね、高い自負と優秀な人材を持つ東京海上グループを將來どういった企業グループにしていくべきか、私たち社外役員も含めた東京海上グループ一體で考えていくことがとても大事だと考えています。
本日はお忙しい中、ありがとうございました。
- *1 MaaS = Mobility as a Service(サービスとしての移動)。ICTを活用して、電車やバスなどの公共交通機関を含め、タクシー、カーシェア、レンタカー、自転車シェアなど、様々な交通機関の検索や予約、支払いなどをワンストップで可能にするサービス
- *2 ロスプリベンション=損害(ロス)を出さないために何をすべきかを、膨大なデータを統計的手法などで分析して提案するサービス